約束
「ぼくたち、いつかきっと会えるよね?」
「うん、きっと会えるよ。だから泣かないで。」
懐かしい人の夢を見た。
その人は近所に住んでいた大切な親友だ。
一緒に遊ぶ時は、決まって近くの広場で走り回っていた。
嬉しい時も一緒、つらい時も一緒・・・・どんな時だっていつも傍にいてくれたんだ。
傍にいる事が当たり前だと思っていた。でも・・・・・・
20年前に、この町からいなくなってしまった。
親の仕事の都合による引っ越しだったのだ。
『なんで? どうして裕ちゃんはなれちゃうの?』
『ごめんね健ちゃん。ぼくら、もう一緒にあそべない・・・。』
『・・・ぼくたち、いつかまた・・・いつかきっと会えるよね?』
『うん、大丈夫。いつか会えるよ。だから泣かないで。』
俺たちはそう会話を交わし、“裕ちゃん”が乗る車を泣きながら見送ったのを今でも鮮明に覚えてる。
当時5歳にして悲しい思いを経験した夏だった。
そして25歳の会社員になった今、裕ちゃんの夢を見たのは10数年ぶりだった。
期待が夢に出てきているのか、神様が“来るはずがない”と伝えているのか・・・。
どっちにしろ、これから起きる事と関係しているのは確かだ。
俺はベッドから起き上がり、“箱”に入っている一本の青いえんぴつを見た。
このえんぴつは裕ちゃんからもらったものだ。
“この青いえんぴつは、ぼくたちの友情のあかしだよ。”
そう言って2本あるえんぴつの内1本を、裕ちゃんは俺に渡した。何でえんぴつなのか、今となって考えてみると子どもの考え方らしいなと思う。
俺は少し微笑みながら、着替えて出かける準備を始めた。
・・・・決して会社に行く準備をしてるわけじゃない。
“約束”を果たしに行くための、準備。
「よしっ!」
俺はひとつ気合いを入れると、青いえんぴつと“1枚の紙”を握り締め―――――約束の場所へと足を歩めた。
車を走らせる事約10分。
俺は約束の時間より30分早く着いてしまった。
俺が着いた場所は、とある広場。
そう、当時裕ちゃんと死ぬほど遊んだあの広場だ。
当時と何一つ変わっちゃいないこの風景・景色。木の匂いが当時の記憶を甦らさせてくれる。
今にもあの時の裕ちゃんが「いっしょにあそぼ」って言ってきそうだ。
広場では子ども達が無邪気にはしゃいでいた。
まるであの時の俺たちのように・・・。
俺はポケットに入れていた1枚の黄ばんだ紙を広げた。
“けんちゃん 20ねんごの6がつ10にち、ひろばであおう ゆうすけ”
5歳児らしい乱れた字で、そう書かれている。
字を母親から習った感じがこの紙に表れていて、とても微笑ましい。
裕ちゃんが引っ越しする時に渡されたこの手紙。
それは6月10日にもらった手紙だった。
そして20年後の今日・・・・・・・6月10日。
約束の日だ。
俺は、この日を待ちわびないなど1日たりともなかった。
毎日が“20年後の今日だったらいいのに”と思っていた。
毎日カレンダーを確認しては、「まだ5年後か・・・」とか「あと10年あるのか・・・」とため息をついていた。
だけど、そういう日とも今日でおさらば。
今日が約束の日だから。
裕ちゃんと約束した日だから・・・。
俺はえんぴつと紙を握り締めながら、大きな木の前で立っていた。
この木は裕ちゃんとよく木のぼりで遊んだ木なのだ。
俺は期待する半分、俺は不安もあった。
裕ちゃんは本当に来てくれるだろうか、と。
たかが5歳児の約束。
いずれ忘れていくもの。
“俺の存在すら忘れてるかもしれないのに。”
もしそうだったら笑ってくれ。
20年もバカみたいに信じて待ってた俺の情けなさを。
ガキの頃の親友をいつまでも思っていた俺の単純さを。
「・・・・・健ちゃん・・・?」
俺のその不安要素は、一瞬にして流された。
俺は、その声がした方へと振り返る。
思わず、出した言葉。
「・・・・・・・裕、ちゃん・・・・?」
その青年は、笑顔で俺を見ていた。
初めて見る笑顔じゃない。
当時の記憶が完全に蘇る。
「やっぱり、健ちゃん・・・健一なんだね・・・!」
「・・・・裕ちゃん・・・裕介・・!!」
直後、俺と裕ちゃんは大木の前で涙を流したという事実は言うまでもない。
あとがき
ハイ、今年最後の更新となります!
しばらくの放置本当にゴメンなさいm(__)m
ホントは私の誕生日(12月30日)までにUPさせたかったんですが、のんびりしすぎて年末になってしもたです^^;
ってか、健一は何で広場に鉛筆持ってきたんだよ! 使い道ねぇじゃん!(おい。
まぁ、この後の2人の様子はご想像にお任せいたしますw(笑)
2010年はもっと亀更新になりますが、頑張りますのでよろしくお願いしますー!
2009.12.31
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