来ないと思った“また明日”

「あなたが好きです。付き合ってください。」
この時生まれて初めて、私はこの言葉を言われた。
私も、その人の事が好きだった―――だから、この2文字を言えるのが精一杯だった。

「……はい。」







私の名前は蒼(あおい)。高校3年生。彼と付き合って早いもので1ヶ月が経とうとしている。
彼の名前は寛樹(ひろき)。私と同じ同学年。彼はルックスがかなりいいし
勉強・スポーツ共々デキる人なので女の子に超モテモテなんだ。
そんな寛樹に対し、私は成績はいい方じゃないしスポーツはまるで苦手。全然可愛くないし、
普通の娘として育てられた…まるでとりえがないの……。
だから、たまに考えてしまう―――どうして私なんかに告白したりしたんだろう。
可愛い子ならたっくさんいるのに…。

そんなある日。
私達は初デートという事で動物園へ行く事になった。
私はとても興奮していて夜も眠れなかった。寛樹から誘ってくれたから余計に嬉しくて。
「さぁ、蒼。行こうか。」
寛樹が手を差し伸べてくれた。一瞬ドキッとしたけど、ゆっくり手のひらを置いて手をつないだ。

色々まわってみると、大きなライオンやキリンやゾウや……迫力のある動物たちがたくさんいて、
私は怖くなったので……気づけば寛樹の腕にしがみついていた。ハッとして急いで手を離すと、
寛樹はくすくす笑っていた。
「ちょっ…何で笑ってるのよ…!」
顔を真っ赤にしながら寛樹に言う。
「だって…! しがみついた時の蒼の顔がおかしくて! でも可愛かったよ。」
「なっ…!」
弱みを握られたような気分になった。
それからまた色んな場所を見て、食べ物を食べて――――とてもいい思い出になった。


夕方になった時。
私達は待ち合わせした場所で別れる事にした。
「寛樹、今日はありがとう。すっごく楽しかったよ。」
ハニかんだような笑顔で寛樹にお礼を言う。
「うん、俺も楽しかった。またいつか一緒に動物園に行こうな。」
そして寛樹は私の唇にキスをすると先に帰っていった。
こういう日がずっと続けばいいのに……そう思っていた。


私の望んでいた幸せがこうも簡単に壊されてしまうとは夢にも思わなかった。

数日後。
私は学校帰りにコンビニに寄ろうと思っていた。今日は寛樹と一緒に帰ろうと思ったのに、「用事があるから」と言われて断られた。
たまにはいっかな、と思い、近くのコンビニへ入ろうとした。と、ふと視界に入ったのが指輪屋さんだった。
ここは、500円のものから高くて1000万円ほどする指輪まで幅広いものを取り揃えている
人気の指輪屋さんなの。もちろん、頼めばペアリングを作ってもらう事もできる。
「いつか寛樹とのペアリング持ちたいな…。」
そんな夢を膨らましていた―――――。
「ん? あれ…寛樹じゃない?」
指輪屋さんの店内に寛樹がいるのが見えた。とても真剣に指輪を見ていた。
「何やってんだろ―――――!?」
私は絶句してしまった。
そこで私が見た光景とは……


寛樹と一緒に指輪を選んでいる女性がいたんだ。


その女性とは、私達より少し大人っぽい感じの人でかなり露出の高い高価そうなワンピースを着ている。
「そ、んな…。」
私は涙が出そうになった。寛樹は楽しそうに女性と指輪を見ている。
「浮気……!」
そっか、用事ってそういう事だったんだ―――――。
私はコンビニには寄らず、涙を流しながら走って家まで帰った。



次の日の放課後。
この日から、寛樹には連絡取らないで1人で帰ろうとしていた。門を抜けようとした時、
「蒼!」
後ろから私を呼ぶ寛樹の声がした。もう聞きたくない声でもあった…。
寛樹は走ってこちらへ向かってくる。
そんな事分かっていたので、振り向かず歩き出す。
けど、もう追いつかれて腕を掴まれた。
私は思わず言ってしまった。
「離してよ!」
腕を振り払う。その時の寛樹は、とてもショックを受けた顔をしていた。
「何だよ、急に……。」
「それはこっちのセリフよ!」
涙をこらえていたけど、もう我慢できなくて流してしまった。
「私、見たの――昨日、寛樹が別の女性と一緒に指輪屋さんにいたところ…。」
「……そっか、見たのか。」
「何平然として言えるの!? とても楽しそうだったよ、あの時の寛樹。
………そうだよね、考えてみれば人気者のあなたと私じゃつり合わないもんね。信じた私がバカだった!」
言いたいことを思いっきり言ってみた。もう何も思い残す事はない…もう寛樹とはお別れだ。
すると、寛樹は俯いたまま私に言った。
「俺、あいつとはそういう関係じゃねーから。」
「“あいつ”…………って、昨日の彼女さんね。何で私に言うわけ?」
「俺が伝えたい事は伝えた。じゃ、また明日。」
そう言って、寛樹は校門を出て行った。


何で……何で“また明日”って言うの?




寛樹のいる“明日”なんて、来るわけないじゃない――――!






その夜。
私はずっと部屋に引きこもっていた。夕ご飯も食べず、暗い部屋のところにいた。
もう何も考えられなかった。
どうして寛樹は私をだましていたの…。最初から付き合う気がなかったんだったら早めに言ってほしかった―――――。
こんな失恋をするのは痛々しい。私にとっては初めて好きになった人で、初めての恋人だったのに。

「さようなら、私の初恋。」

そう呟いた時、急に部屋が明るくなった気がした。
「ちょっと蒼、いつまでそうしてるつもりなの。」
母さんだ。母さんが部屋のドアを開けたんだ。
「夕ご飯ならいらないって……言ったじゃん。」
弱々しく答える。今は何もしたくなかった。
「そんなに落ち込んでるって事は…寛樹君にフラれた、か。」
ため息をつく母さん。なんで母さんもそんな軽々に言えるの? 私の心はズタズタなんだよ。
涙がこぼれそうになる。けど、母さんは言ったんだ。



「あんたの性格だから、寛樹君が女の人と一緒にいたのを見て落ち込んだんでしょ?
ったく、母さんったら変な娘を授かったものね。その人が彼女だっていう保障あるの?
寛樹君本人からその人の事聞いたの? 事実がまだ分からないんだったら当たりなさい!
“当たって砕けろ”っていう言葉があるでしょ、寛樹君に聞いて………それが事実だから。
もし彼女じゃなかったら、カッコ悪いのあんたよ。」



ハッとした。

“当たって砕けろ”………私には、その言葉が強く心に響いた。何だろう、
この…力が沸いてくる感じは。

「母さん……。」
私は立ち上がった。母さんは笑っていた。
「行きなさい! 当たらないで砕けるより当たって砕けた方がいいのよ。
あんたは母さんの娘なんだから、きっと大丈夫よ! 強い心を持て!」
「………うん!」
そして、私は走り出した。
そうよ…私、自分の手で真相を確かめるんだ。
たとえあの女(ひと)が彼女でも、寛樹の口からちゃんと聞きたい。


来ないと思っていた“また明日”を取り戻すために―――――!




【ピンポーン】
私はインターホンを鳴らした。そう、私が向かっていた場所は寛樹の家だ。
ひどい息切れをしながら誰かが出てくるのを待つ。
そして………。
「はい、どなた?」

家から出てきたのは、昨日寛樹と一緒にいた女の人だった。今度は軽装だったんだ……。

私はショックを受けた。
「あのっ………!」
言いたいけど…口が震えて言葉に出せない。怖い―――怖いよ。

『強い心を持て!』

ふと母さんの言葉が頭をよぎる。そうだ…強い心を持たなきゃ…!
行くのよ蒼!
と、決意した時だった。

「あぁ、寛樹の彼女さんねー。」

えっ…?
「いつも“弟の寛樹”がお世話になってるわ。あいつ、ホント迷惑かかるでしょ。」

――――弟…?

「確か……蒼ちゃん、だっけ。あいつさー、いっつも私にあなたの事話すのよ。
あのバカ弟が彼氏だなんてさ…蒼ちゃんも大変だよね。」
冗談のような言い方をして笑ったその時。
「誰がバカ弟だ!」
誰かが後ろからこの人を殴ってしまった。それと同時に聞きなれた声がした……

寛樹だ―――――。

「“姉貴”、何余計な事言ってんだよ!」
「はいはい、すいませんねー。じゃ、お邪魔虫はこれにて退散。」
そう言って、女の人はそそくさと家の中へ入っていった。

となると、今は寛樹と2人だけになってしまった――――。
私はとんでもない事をしてしまった…。
あの人が勝手に寛樹の彼女だと決めつけて―――それで寛樹が傷ついて…。

本当にバカなのは私だ! ショックを受けたのは私じゃなくて寛樹じゃん!

「とりあえず、誤解は解けたろ。」
最初に沈黙を破ったのは寛樹だった。寛樹は真剣な眼差しで私を見る。
「あの……私…寛樹にひどい事言っ………!」
思わず涙を流してしまった。私は罪を感じた……。
寛樹の彼女なのに、何も分かっていなかった―――。
「いいよ…何も言わなかった俺も悪い。」
「謝らないでよ………私、勝手に思いこんでただけなのに…。」
寛樹の胸に飛び込みたかった…けど、今の私にはそんな権利はない。

彼女失格だ――!

「これ、お前にあげようと思ってたんだ。」
「え…?」
ポケットから取り出したのは、1つの指輪だった。
「これ……。」
私は驚いて、指輪をじっと見た。

「驚かそうと思って、あの時姉貴に頼んで蒼との“ペアリング”を一緒に探してもらったんだ。

 ほら、俺らさ明日で付き合ってちょうど1ヵ月になるじゃん。」



忘れてた―――――――そういえば、明日で付き合い始めて1ヵ月になるっけ。
そんな事……寛樹は考えてくれていたなんて。
どうして私は寛樹の事を分かろうとしていなかったんだろう…。
表だけを見て裏は全然見なくて―――。
「寛樹……ごめん、なさ…い――――私…。」
すると、寛樹は私の右手を取って薬指に何かをはめこんでいた。

俯く顔をあげると、そこには“寛樹とのペアリング”があったんだ。

「1日早いけど、1ヵ月無事突破できたな。」
やっぱりいつもと変わらない寛樹の笑顔があった。そして、よく見ると寛樹の右手薬指にも
同じ指輪がはめられていた。
「寛樹……本当に、ずっと私が彼女で…。」
「蒼じゃなきゃ意味ないんだよ。俺には君しかいない。」
そして、私は彼の胸で思いっきり泣いた。寛樹もまた、優しく抱きしめてくれた。

寛樹はこんな私を許してくれた。
ちょっとでも疑った私を、寛樹は受け流すようにしてくれた。
私、これからもっと寛樹の事を知りたいと思った。
寛樹の彼女として、ふさわしい人になれるように…。

来ないと思った“また明日”が、私たちのためにやってくる―――







あとがき

ぽん。 様に贈った小説です。
読んでいると「文章力ねぇなー」と思えてしまいました。
ストーリー的には気に入ってます。なので文章の方は許して!