諦めない〜コロとペンダント〜

「ほら、コロ! お散歩行くよー。」
「ワンワン!!」
「ははっ、コロったら本当に散歩好きなのね。」

私の名前は奈那(なな)。もうすぐ20歳になる大学生。高校卒業したと同時に親元を離れアパートで1人暮らし。
コロは私のペット。柴犬でまだ1歳なの。あっ、住んでいるアパートはペットOK。
ここに引越ししたての時、近くのゴミ捨て場で小さな動物の鳴き声がしたんだ。
その時は雨だったんだけど心配になって行ってみたら、今にも死にそうな子犬が倒れてたの。
「大変!」って思ってすぐに家に入れてミルクを飲ませたんだけど……。
すっかりなついてしまったから仕方なくコロを飼う事に決めたのよ。
私は思わず、コロの首にピンクのスカーフをつけちゃった。







ある日。
「コロの親、心配してないかなぁ…。それともやっぱり捨てられたのかな…。」


散歩コースを歩きながらそう考える。ため息をついていると、コロが私の足の脛(すね)をペロペロ舐めてしまった。
「わっ…コロ、何してるの!?」
驚いて振り払う。ベターっとコロのつばが付いている。
あーあ…と思っていると、コロが私の前に出てきて澄んだ瞳でこちらを見つめていた。
「クーン…クーン……。」
何とも可愛らしく鳴き始める。いい子にお座りをしていた。
その行動を見ると、私はすぐに分かった。
コロはきっと心配しているんだ…。元気のない私を見て。
「コロ…ごめんね、心配させて。私は元気だよ。」
笑顔で、よしよしと頭を撫でる。すると、コロも元気を出してワンワン! と元気よく吠えた。
そんなコロに微笑むと、私たちは散歩を再開した。

私にはとても大切にしているものがあるの。それは“星のネックレス”。
これは大好きだったおばあちゃんにもらったものなの。でも…私が小3の時に他界。
小1の時、生前のおばあちゃんからあるネックレスをもらった。それがこのネックレスだった。
雑貨屋さんや玩具屋さんによく売っているようなプラスチック製のものだけど、低学年の私にとってはとても嬉しい贈り物だった。
これをいつも身につけていたら、近くでおばあちゃんを感じられる……。
だから、肌身離さずつけているの。1番好きな人だったから――。
もちろんこの事はコロも知っている。毎日って言っていいほどコロにずっと話してるもんね。
でもなぜか、話をすると勢いよく尻尾を振ってお座りするの。「ワンワン!」って吠えたりする。
まるで私の気持ちを感じ取ったように…。
もしかしたら、コロは私の全てを知っているのかも。
不思議だなぁコロって…。






数日後。
この日は最悪な事に、朝から雨だった。風も強くてまるで台風のような豪雨だ。
木々は激しく揺らされていて葉っぱもあちこちに飛んでいるし、その辺の空き缶も10m近く吹き飛んでいく。
そんな様子を、ソファーに座ってコロと一緒に見ていた。
「今日は散歩行けないねー…。」
頭を撫でながら寂しそうに言う。コロもまた、クーン…と悲しい泣き声を出した。
悲しいのは散歩に行けないというだけじゃなかった。
「今日買い物に行かないといけないじゃん…!」
ちょうど食料が切らしていたので、昨日「明日行こうっかな」と考えていたのだ。
ある意味泣きそうになりながらも準備を始める。もちろん、あのネックレスもつけて…。
雨対策も万全な状態で行こうとするが、
私のズボンの裾を何かが引っ張る感じがした。見ると、それはコロだった。
「お前は今日は部屋に居ときな。この天気じゃ散歩には行けないんだよ、私は買い物に行くだけだから。」
私は笑顔でコロを撫でる。コロはゆっくりズボンから離すと、私の手をペロペロ舐めた。
「ははっ、相変わらず心配性だねぇコロは。」
そして私は、行ってきますと言って部屋を後にした。


「うわぁ……部屋の中で見るよりスゴイなぁ…この雨。」
前から容赦なく降りつける雨の鉄砲。今にも傘が破れそうなほどだ。
これ、マジで台風じゃないの? と思わせてくれる。
スーパーまではあと500mちょい…着いた時は雨対策も虚しく、全身のほとんど濡れていた。

20分ほどで買い物は済んだ。これからコロの待つアパートへ帰ろうと思う……が。
その時私は“馬鹿”と言うにふさわしいくらい全く気づいていなかった
――――とてもとても大事な事に――。



カチャ
「ただいまー。ものすっごい雨だよぉコロ。」
重かった荷物をその場にドサッと置く。はぁ…とため息をつくと、コロが駆け寄ってきて胸に飛び込んできた。
顔をペロペロとずっと舐めまわす。ずっと心配してたらしい。
「もうコロったら、寂しかった上に心配してくれたんだね。ありがと。」
ぎゅっと抱きしめる。コロの暖かい毛が私を癒してくれるんだ。
いつもコロには助けてもらっている。本当に感謝しているんだよ、コロ。
コロを降ろし、お風呂に入ろうかなと思った時…………………。
「…………!」
玄関にある鏡をふと見た。そこには、“ あるべきのもの”が、目の前には…。
「ど、して……………!?」
私は“胸元”を強く握り締めた。目頭が熱くなり…
「コロ………無いよ……無くなっちゃった…。見て――――――



 ペンダントが無いよ……。」



豪雨と負けないくらいの大量の涙が、19歳の目から流れ落ちた。



私は、ペンダントを落とした事に全く気づかなかったんだ。

「どうしよコロー! あれが無いと……私…生きていけないよ!!」
ただひたすら泣きわめくしか出来ない――。探そうとしても、この雨じゃダメ。
死ににいくようなもんなのだから。
ごめんね……ごめんねおばあちゃん…。私、おばあちゃん守れなかった…。
人間失格だよ…私。
大切にしてきたつもりなのに…。きっと、もの凄い雨と風で鎖が切れてどこかに飛ばされたのかもしれない。

「もう嫌だーーっ!!!」

すると―――



ガブッ

「痛っ…。」
コロが私の手を強く噛んだんだ。
「……コロ…?」
私は驚いた。なぜなら、拾った時からコロは私に噛んだこと無いから…。


それに、こんなに怒った表情は初めて見た……。


う”――と唸るコロ。急にどうしちゃったの…?
「ワンワン! ワワワンワンワンワワン!!!!」
激しく吠える…これも初めて…。
――――もしかして、コロ…あなたの言いたい事って…。



あきらめないで!!




「……行こう、コロ!!」


私たちは雨の中、傘は差さずに必死に走り回ってペンダントを探した。
コロを連れてきたのは…どうせ「待ってて」って言っても聞かないもんね。
コロの性格は私が1番よく知っている。
【あきらめないで】――確かにコロの瞳はそう言っていた。
あの力強い眼は、いかにも“確信”をもっているかのようでもあった…。
やっぱり凄いよ、コロ――! いつも私に元気と勇気を与えてくれる。

これからもずっと一緒だよ…!



そして……
「あった…私の……おばあちゃんのペンダント――。」

そこは、アパートから約1km離れたとある公園の木の下だった。







DEAR 私の家族へ:
コロのおかげで、ペンダントは無事に私の胸元にあります。
「あきらめない」というとても大切な気持ちを、コロはくれました。
言葉では言い表せられないくらい、コロには感謝しています。
コロは今、傍にはいません。
あの時、公園に偶然コロの家族がいたのです。
コロは私の元を離れなかったのですが、犬にはやっぱり犬の家族が必要でしょう?
人間も、同類の“人間の家族”が必要です。
私は、寂しさをこらえてコロを家族の方へ戻してやりました。
コロはまた一歩、大人へと成長していきました。
またいつか会えると信じて、今日という日を過ごしていきたいと思っています。
FROM 奈那








「あちゃー…卵が無いなぁ。ちょうど野菜もきれているし…買い出しに行くか。」
玄関を出て、元気よくアパートを飛び出した。
と、その時。
「ワン!!」
後ろから犬の吠える声が聞こえた。私は思わず振り返る。



家族連れらしき柴犬がこちらを見ていた。

その中に、“ピンクのスカーフを首に巻いた”……もう少しで2歳になるコロがいたんだ―――――――








あとがき

ペタットの時にお友達になった氷鏡 様に贈った小説です。
初めて他人に贈る小説なので、緊張しながらも仕上げることができました。
あ〜〜………自分で読むと恥ずかしくなる…。