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幸せ

俺の彼女は、もうどこにもいない。この世界のどこを探しても決して見つかることはない。
 俺の彼女の名前は、椎名歩美。優しくて、他人思いな奴だった。
そんな歩美が大好きで、俺はいつもダチに自慢していた。

「歩美さ、マジ可愛くね?」
「お前なぁ、自慢ばっかしてんくんじゃねぇよ。可愛いに決まってんだろ。
何しろこの会社一の美人なんだからよ」
「まぁな」

 歩美は、美人だった。
俺と釣り合ってるか心配になっちまうほど、綺麗だった。そして可愛かった。
 俺の勤めている会社は、IT関係の有名な会社で。
頭のいい奴ばっか揃ってるような所だ。なのに何かと美人が多い。
 会社ではミスコンみたいなのが、年に一度行われる。
それで見事に一番に輝いたのが、俺の大切な彼女である歩美ってわけ。
 けど、そんな優しくて聡明で綺麗だった歩美はもう、どこにもいない。
一週間前、歩美はこの世から姿を消した。
 その日は俺の誕生日だった。今日みたいに土砂降りの雨で、家の中もジメジメしていて気分も最悪だった。
前日は課長に付き合わされて、遅くまで飲んでいたため、二日酔いで頭はクラクラしていた。
 そして俺は、それらのせいで、自分の誕生日をすっかり忘れていた。
 突然、チャイムが鳴った。もちろんやって来たのは歩美で、嬉しそうに微笑んでこう言った。

「今日は、何の日だ?」
「…何の日だっけ?」
「やっぱり忘れてたんだ〜」
「何の日だよ」
「思い出してよ。それまで教えてあげなぁい」

 歩美はいつもと同じだった。何も変わらず、無垢なままの歩美だった。けど、俺は違った。
前日の疲れと、久しぶりの休みだから眠りたいという欲求が頭をいっぱいにして、歩美の心遣いに気付かせてくれなかった。

「うるせぇな。朝っぱらから何かと思えば、くだらねぇことばっか言って…。
用がないんなら、とっとと帰れ。俺は疲れてんだよ」

 今でも後悔している。いや、今だからこそ余計に後悔している。
なんで、あんな酷い言葉を言って歩美を突き放したのか…。
部屋に上げてゆっくり話をすれば良かったのに。そしたら歩美が死ぬなんてこと絶対になかった。

「ご、ごめん。悠くん疲れてるんだね。ごめん。じゃぁ、私帰るからゆっくり休んでね」

 その言葉が歩美の最後の言葉。彼女の最後の言葉が「ごめん」だなんて、
俺って本当にあいつに何をしてあげれたんだろうか。

 歩美を殺したのは俺だ。俺が歩美を殺した。謝って済むような問題じゃないな。
歩美のご両親にも申し訳なくてあわせる顔がなかった。
 それなのに歩美の両親は優しい顔してこう言ったんだ。

「悠平君のせいでは決してないよ。あの殺人鬼の通り魔が悪い。
だからそう、肩を落とさないで。ね、悠平君」
「そうよ。悠平君は何も悪くないわ。ほら、そんな顔してたら歩美が悲しむわよ」

 歩美がなんであんなにも優しかったのか、何となく分かった気がした。
この両親の元で育てば、自然と優しくなるだろう。

「本当に申し訳ありません。娘さんを守ることが婚約者である、俺の役目だったのに…。
俺、どうしてこうも弱いんでしょうか。歩美さんのような強さが俺も欲しいです」

 そうだ、俺は弱いんだ。いつだって歩美に引っ張られてた。
何をするにも歩美が一歩リードで、男らしいところなんて一回も見せていない気がする。

「私は、歩美が悠平君と一緒になると言った時、最初は反対しようと思ってたんだ。
だが、君に会ってからは早かったね。認めるのにそう、時間は掛からなかった。
君は一途で本当に歩美の事を思ってくれていた。その気持ちが歩美も嬉しかっただろう。
そして、今でもそう思ってくれていることが、とても嬉しいと思うよ。ありがとう、悠平君」

 ありがとうだなんて、言わないでくれ。歩美を殺したのは俺で、もっと責めてくれれば良い。
その方が楽だ。俺が悪いんだと言ってくれ。そうすれば俺は悪人に徹して生きればいい。
そうすれば、少しは気が紛れるかもしれない。
歩美を失った悲しさを紛らわす事が出来るかもしれない。
お義父さん…そんなに優しく言わないで下さい。もっと俺を責めて下さい。

「お義父さん。俺は旅に出ます。
歩美のことを色々整理するためにも、日本中、いや世界中を見て回って来ます」
「そうするといい。悠平君、最後に言わせて貰うが…歩美は君が幸せになることを望んでいると思うよ。
だからね、歩美のことばかりに気を取られずに自分の幸せも考えてごらん。
君はいい青年だ。きっとすぐにいい女(ひと)が見つかるよ」
「…ありがとうございます。本当にありがとうございます」

 俺は一瞬泣きそうになった。けど、その涙をどうにか堪えて踵を返した。
 前に広がるのは真っ青な空だけ。その空はどうしても澄み切ることができない、そんな複雑な色をしていた。





「お父さん!おっきなカメさん見つけたよ〜」
「お、歩美は目がいいなぁ」

 二十年後の俺は幸せそのものだ。最愛の人もでき、子供も出来た。
名前は俺が決めたわけじゃない。妻が歩美のことを忘れないようにと歩美と名付けてくれた。
 俺は今でも歩美が好きだ。それはとても素直な気持ち。
けど、俺にとって今一番大切な人は隣にいる彼女と、最愛の娘。この二人だけだ。

 歩美の命日には決まって三人で出かける。娘はいつも不思議そうに墓を見つめる。
 いつか、歩美がもっと大人になった時、歩美のことを話そう。
とても優しくて綺麗な人がいたんだってことを。その人は俺の大好きな人なんだってことを…。






あとがき

ペタット時代に交流があった氷鏡様から相互記念として頂いた小説です。
読んだ時、号泣してしまいました(T_T)こんな素晴らしいお話があるものか…と。
私にとってお初のお宝小説でございます。
本当にありがとうございました〜